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康司の遠征日誌 2

マイクの最初のシーカヤッキングは笠戸島だった。運動神経は相当良いのだろう。初めてのシーカヤックにも臆することなく力強く漕いだ。ただ力の強い男性特有の腕漕ぎだ。体全体に力が入りロボットのように漕ぎ続ける。
たった往復6kmの距離だったが終了するとマイクはへたり込んだ。気丈に大丈夫だとは言い張っていたが相当疲れたのだろう、帰りの車の中では爆睡していた。
手漕ぎのカヤックで漕ぐことの厳しさに気づいてこのまま韓国行きは諦めるのではないだろうかと心配になるほどだった。
しかしショップに戻るとすぐに元気になったようだ。

「カヤックはグレートな乗り物だ。このままトレーニングを続けたい。できれば自分のカヤックを持って休みの日にはトレーニングをする。定期的にコージのスクールに通って遠征に耐えうるスキルを磨きたい。協力してもらえるだろうか。」
僕は韓国まで掲載された日本海の地図を開いた。
「どういうルートで行きたいの?」
「ビーチクリーンを定期的に行っている角島から出発したい。できれば200kmを直線で釜山まで横断したいんだ。」
「シングル(一人乗りで?)」
「そうするしかない。誰も一緒にいってくれないと思う。」
「うーん、それはちょっと難しいと思う。日韓の間には北東に向かって対馬海流が流れている。シングルなら3日はかかる。追い潮に乗るのなら分かるが大きく流させる可能性が高い。島づたいに行くのが安全なルートだ。」
「いままでにそれを実行した人はいるの?」
「何人かいると聞いているよ。でも角島からだったら宗像の沖に沖ノ島がある。対馬~沖ノ島~対馬~釜山はだれもやったことはないと思う。」
「だったらそのルートで挑戦してみたい!」

角島~沖ノ島~対馬を地図で距離を確認するとそれぞれ70kmの海峡横断となる。しかも真西に向かうルートで海流に逆らう形になる。シングルでは難しいかなと内心は思っていたが口には出さなかった。それはマイクが己で決めることだと思った。

艇庫の隅に転がっていた古いアクアテラ・チヌークがあったことを思い出した。マイクを艇庫まで連れてゆき誇りまみれになったチヌークを見せた。
「このカヤックなら自由に使っても良いよ。装備一式も貸そう。好きなだけ練習したらいい。」
日本人ならもう見向きもしなくなった老艇チヌークにマイクは希望を見たようだ。
「整備したらまだまだ使えそうだ。これでトレーニングができる。サンクス!」
なんだかまた海に浮かべることになれたチヌークも喜んでいるように見えた。

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