「冗談でしょ。この通り僕たちはピンピンしていますよ!」
「定期連絡がなかったようで、本部のほうから救難命令が出ています。」
最後に連絡したのは午前10時。そうだった、海上保安庁のほうは4時間おきの定時連絡をするようにと僕たちに要請していたのだった。
しかしこの定時連絡については事前に一悶着があったことも事実だ。カヤックという特性上、パドルから手が離せず電話ができない場合もある。緊急のためにも 携帯衛星電話のバッテリーの消費も抑えたいので4時間おきは努力はするが約束はできないと伝えていた。緊急の場合はこちらから連絡するとも。
上空からは爆音をあげて双発のプロペラ機が旋回しはじめた。
「もしかするとこの飛行機も僕たちを捜索するため?」
船上の海上保安官は大きくうなずいた。なんてこった。。。
とくかく福岡の海上保安本部のほうへ電話してほしいということなのでカヤックの上から電話をかけた。
「なぜ本部の方へ定期連絡を入れないのか!」
電話先からは名前も名乗らない高圧的な態度の男が突然そう言い放った。
「海域の管轄が変わったから良かれと思い福岡海上保安部のほうへ定期連絡を入れたのですよ。」
「約束した時間に定期連絡がなかったじゃないか!」
「こちらとしては約束した記憶はありません。昼前にした連絡でも今日は完璧な天候で問題はない。壱岐に近づいてきたら連絡すると伝えていたはずです。」
「そんな報告は聞いていない!」
明らかに喧嘩腰である。お前たちは重大な過ちを犯したのだぞ。こんな騒ぎを起こしたのだからもうこの遠征を中止しなければならないぞといわんばかりの口調だった。
「とくかく僕は救助要請をした覚えもない。こんなことになるのなら今後定期連絡も一切行わない!」
僕はそういって電話を切った。
僕達は憮然として再びパドリングを始めた。しばらくの間巡視艇は僕たちの後ろをついてきたがそのうち壱岐にある母港へと帰って行った。
壱岐の北岸は美しかった。断崖絶壁の切り立った海岸線と透き通るように深い底まで見える美しい海。毛羽立った心がゆっくりと落ち着いてくるのが分かる。壱 岐北端の小さな島に囲まれた天然の良港勝本に入る。整備されたキャンプ場をみつけ上陸した。人間の都合はともかく僕たちは最初の横断を無事の終えることが できたのだ。まずはそのことを喜ぼう。