7月6日夜半過ぎから風が北東に変わった。しらじらと明るみを増す空を見上げると今にも泣きだしそうなどんよりとした雨雲が空を覆っていた。
脇本さんがカヤックの上でも食べれるようにと携帯食を持参して見送りに来てくれた。8時頃まで風が変わるのを待ったが南に変わることはなかった。遠くの空で雷鳴が聞こえた。今日の出艇を取りやめるしかなさそうだった。
チェさんにラインで連絡する。
「今日の出艇は取りやめます。」
「了解です。そのほうが良さそうですね。」
残念なような、ホッとしたような不思議な気持ちだった。
比田勝に戻り出入国管理局に行く。出国スタンプの取消のためだ。昨日のやさしい係員とはうってかわって少し目つきの鋭い係員が僕達を見るなりまくしたてた。
「もう台風が接近しているから今回は諦めましょう。韓国の税関が駄目だといっているのですから私達も許可を出したくない。」
「それは話が違う。こちらは正式な手続きをして出国しようとしている。出国した後は我々の自己責任だ。スタンプを押してくれないことだけは絶対に困る!」
僕も食い下がった。いろいろな議論が対馬税関でもあったのだろう。何度もスタンプを押すのは嫌だということなので台風が通過するまでは出ないと約束してとりあえず今回の出国スタンプの取消は行ってくれた。
サポートしてくれている僕の家族(妻と子供二人+居候)が一足早く釜山に行き帰国することになった。植え付けをした田んぼや畑をこれ以上ほったらかすわけにはいかなかったからだ。
旅は台風接近に伴い長期戦に入らざるを得なかった。脇本さんの好意で開業間近のゲストハウスの第一号として宿泊させていただいた。暴風に備えてカヤックは佐護シーランドの艇庫に保管してもらうこになった。脇本さんの好意にはいくら感謝しても余りある。彼の北対馬でのサポートがなければ今回の遠征は成し遂げられたなったとも思う。