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康司の遠征日誌 16

史上最大の勢力と言われていた台風8号だったが対馬直撃のルートではなさそうだった。ただ台風ともなう風やうねり、押し上げられた梅雨前線の影響は当分つづきそうで出発の見通しは立たなかった。
脇本さんの経営するお店の手伝いをしたり配達に付き添っていろいろ観光をしたりして対馬滞在の日々を過ごしていた。
7月8日、運命的な出会いを果たすことになる。
対馬北東岸に位置する景勝地でもある茂木浜を訪れたときのことだ。
対馬の観光地はどこも韓国人観光客ばかりで茂木浜にもツアー中らしい10名ほどの韓国人の団体が浜を散策していた。
一人の韓国人男性が「不思議な岩が落ちていたがこれはなんだろうか?」と流ちょうな英語で僕達に話しかけていた。その岩は灰色の固まりに白いつぶつぶの物 体が埋め込まれたような形状をしていた。よく見るとそれはコンクリート片で、割れ止めの添加物として発泡スチロールを混ぜて固められたもののようだった。 波に洗われて不思議な形状をした塊に変化したようだ。
それを伝えるとその男性は残念そうな顔をしていたが今度は僕達に興味をもったようだ。
「ところで君たちは対馬でなにをしているの?」
これも一つの縁だと思い今回の遠征のことを簡単に話した。
漂着ゴミの問題。宗像から対馬まで手漕ぎのカヤックで漕いできた。そして釜山まで行きたいのだがなかなか許可が出ないことなど。
そうすると韓国人男性は非常に興味を持ったようでメモを持ち出してきて僕達に言った。
「詳しく教えてほしい。」
正直、この男性に話してなにかが変わるとも思えなかった。しかし一縷の望みさえも絶たれてしまっている現状から少しでも打開できればという想いで韓国税関とのやりとりを一年前からさかのぼり詳しく説明した。
話が終わるとその男性は「よく分かりました。」と言い一枚の名刺を手渡してくれた。
その名刺には「ライオンハート」と名前が書かれていた。
「これはなんの名刺なのですか?」と聞くと
「韓国のおいしいレストランをウエブで発信してるのさ。道楽だよ。」
といって笑っていた。
ツアーバスの運転手さんに促されライオンハートさんはバスに戻っていった。僕達は名刺を持っていなかったので脇本さんの名刺を手渡しただけだった。なんの約束もしていない。ただそのときはたまたま道中で出会った人と世間話をしたという認識しか持っていなかった。
しかしその数日後ライオンハートさんによって僕達の運命が大きく変わることになる。

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